
著者
ほうれい線治療専門
東京リンクルクリニック
院長 沖津茉莉子
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鏡の前でふと気づく「口元の影」。 それが顔の中でも最も年齢を感じさせる“ほうれい線”です。
最近では「しわに効く」「ほうれい線専用」などとされるクリームや美容液が数多く登場していますが、実際どこまで改善できるのでしょうか。
結論から言うと、専用クリームは乾燥やハリの低下が原因の“小じわ・ちりめんじわ”には効果的ですが、骨格や脂肪の下垂が関係する“立体的なほうれい線”を根本的に消すことはできません。
ただし、正しい成分を選び、日々のスキンケアでハリと弾力を保つことで、ほうれい線の進行を防ぎ「影を浅く見せる」ことは可能です。
この記事では美容皮膚科医の立場から、ほうれい線に対してクリームが“どこまで効くか”を科学的に解説しつつ、成分・選び方・限界・医療的選択肢までを詳しくお伝えします。
目次
ほうれい線はなぜクリームだけでは消えない?

ほうれい線は骨・脂肪・皮膚が原因となる立体的な溝
ほうれい線は単なる「肌表面のしわ」ではなく、顔の立体構造が関係しています。
加齢とともに頬の骨(上顎骨や頬骨)が萎縮し、皮下脂肪が重力で下垂します。さらに皮膚を支える靭帯が緩み、皮膚表面のハリが失われることで、頬のボリュームが全体的に下がり、皮膚が折れ曲がることによって「溝」が生じるのです。
この際、乾燥やキメの乱れなど表皮の問題でできる細かい「小じわ」「ちりめんじわ」に対してはクリームで改善が可能ですが、骨格や脂肪の位置変化が原因の“溝型ほうれい線”にはクリームでは対処しきれません。
クリームの効果が届くのは深くても「真皮の浅い層」まで
皮膚の再表層にある表皮(約0.2mm)は外的刺激に反応する層で、小じわやちりめんじわの原因となります。
この表皮に対しては、クリームによる保湿やバリア機能の改善によって、ある程度のハリ感を取り戻すことが可能です。
一方、皮膚の深部にある真皮(約2mm)は、加齢によってコラーゲンやエラスチンが減少し、皮膚の弾力そのものが低下する主因となる層です。この真皮のうち比較的「浅い層」に対しては、レチノールやナイアシンアミドなどの「線維芽細胞に働きかける成分」が有効です。
つまり、クリームで期待できるのは「表皮〜真皮浅層」=「皮膚の表層」のみのケアであり、ほうれい線の「立体的な溝」を深部からに立ち上げるには、美容医療における再生治療(グロースファクターなど)が必要となります。
成分で選ぶ|ほうれい線に“効く”クリームとは?

①レチノール|ターンオーバー促進とコラーゲン再構築
レチノール(ビタミンA誘導体)は、皮膚のターンオーバーを促し、真皮でのコラーゲン生成を活性化させる代表的な成分です。“医薬部外品”としてしわ改善効果が認可されており、継続使用で肌のハリや弾力を高めます。
ただし初期の刺激症状(A反応)が出やすいため、最初は低濃度から徐々に慣らすことが重要。
乾燥肌や敏感肌の方はレチノールよりマイルドなレチナール配合製品を検討しても良いでしょう。
②ナイアシンアミド|しわ改善×美白のダブル効果
近年注目されているのがナイアシンアミド(ビタミンB3)です。 レチノールに比べて刺激が少なく、真皮の線維芽細胞を刺激してコラーゲン産生を促す働きがあります。
同時にメラニン生成も抑えるため、くすみ改善や透明感アップにも効果的。
国内大手ブランドでも“しわ改善有効成分”として広く採用されています。
③ペプチド・エラスチン|ハリ・弾力のサポート成分
ペプチドは肌のタンパク質(コラーゲンやエラスチン)の生成をサポートするアミノ酸由来の成分。
「パルミトイルペンタペプチド」などの抗しわペプチドは、表情筋の動きに伴う小じわを和らげる効果があります。
また、エラスチン配合製品は肌の弾力を補強し、ハリ不足による口元の小じわにも有効です。
④ヒアルロン酸・グリセリン・BG|即時的なうるおいとツヤ
保湿の三大成分と呼ばれるこれらは、肌表面の水分保持力を高め、乾燥による小じわを瞬時にふっくら見せる効果があります。 特に“高分子ヒアルロン酸”は肌表面で膜を作り、ツヤ・潤い感をもたらします。
ただし、あくまでも表面的なハリ感をもたらす程度である点は理解しておきましょう。
⑤セラミド|角層バリアを守る根幹成分
セラミドは角層細胞のすき間を埋める脂質成分で、外的刺激や乾燥から肌を守ります。
特に「ヒト型セラミド(セラミドNPなど)」は浸透性が高く、乾燥による肌荒れや小じわ対策に欠かせません。
バリア機能を整えることで、ほうれい線周囲の乾燥悪化を防ぎ、ハリをキープする土台をつくります。
有効成分狙いなら医薬部外品(薬用)がおすすめ
「薬用」と記載されている製品は、正式には「医薬部外品」と呼ばれます。
これは、化粧品と医薬品の中間に位置するカテゴリーで、厚生労働省が定める「有効成分」が一定濃度以上配合され、“しわを改善する”“乾燥を防ぐ”“肌あれを防ぐ”など、具体的な効能を表示することが許可されている製品です。
一方、通常の「化粧品」は、肌を清潔に保ち・健やかに保つ目的に限定されており、「改善」「予防」などの医薬的な表現はできません。(例:「ハリを与える」は化粧品可、「しわを改善する」は医薬部外品のみ)
肌タイプ別のクリーム選びの戦略

乾燥肌|セラミド×油分のダブル保湿
乾燥肌は角層の水分保持力が低下しており、セラミド・スクワラン・シアバターなど油分の多い処方が向いています。
特に夜は“ナイトクリーム”として重ね塗りを行い、翌朝まで潤いをキープするのが理想です。
敏感肌|フリー処方と鎮静成分を
アルコール・香料・鉱物油などの刺激性成分を避け、「低刺激」「パッチテスト済み」表記のある製品を選びましょう。
鎮静効果のあるグリチルリチン酸ジカリウムやアラントインを含む薬用クリームが安心です。
脂性〜混合肌|軽いテクスチャーで水分をキープ
皮脂が比較的多いタイプは、こっくり重い油分タイプよりも「ジェルクリーム」「水溶性ヒアルロン酸」などさらっと軽い使用感の保湿剤が理想的。
TゾーンとUゾーンで塗り分ける“部分保湿”もおすすめです。
クリームの正しい使い方|塗る順番・量・タイミングで効果を最大化

スキンケアは順番がカギ
どんなに高価なクリームでも、塗る順番を誤ると効果が半減します。
基本は「化粧水 → 美容液 → 乳液 → クリーム」の順。
クリームは仕上げの「フタ」の役割を果たし、これまで与えた水分や有効成分を逃さず閉じ込めます。
乾燥やしわが出やすい口元は、少量を手のひらで温め、やさしく押さえるように密着させるのがポイントです。
摩擦は皮膚の弾力線維を傷つけ、たるみを進行させる原因になるため、こすらず優しく広げましょう。
夜の“再生タイム”を味方に
レチノールやナイアシンアミドなど、肌再生を促す成分は夜の使用がより効果的。
夜は成長ホルモンの分泌が活発になり、細胞修復が進むため、ナイトクリームとして使うと成分の浸透効率が上がります。
翌朝はハリとツヤを感じやすくなるでしょう。
マッサージのやりすぎは逆効果
「マッサージすればしわが伸びる」と誤解されがちですが、ほうれい線部分を強くこすると逆に皮膚が伸び、靭帯の緩みを悪化させることがあります。
血行促進を目的にするなら、頬全体を手のひらで軽く温める程度で十分です。
必要に応じてパッチテストと慣らし使用
新しいクリームを使う前は、腕の内側などで2〜3日パッチテストを行いましょう。
特にレチノール・レチナールは初期の刺激症状(A反応)が出やすいため、最初は週2〜3回夜のみ使用から開始し、肌が慣れたら毎日に。
無理に毎日使うより、継続できる頻度で続けることが結果的に近道です。
外的要因を上手にコントロールしよう(紫外線・摩擦・乾燥など)

紫外線は真皮ダメージの最大要因
ほうれい線の進行を早める最大の外的要因は紫外線です。
UV-Aは真皮層にまで届き、コラーゲンを分解する酵素(MMP)を活性化させ、皮膚のハリ構造を破壊します。
しわ対策クリームだけでなく、日焼け止めを毎日使用し、屋内でも窓際では油断しないことが大切です。
マスク摩擦・乾燥対策も忘れずに
マスクの繊維が皮膚をこすり続けると角層が傷み、口元のバリア機能が低下します。
「保湿+低摩擦マスク+こまめなスキンケア」の3点セットで防ぎましょう。
また、エアコンによる乾燥は、水分を奪い皮膚のハリ低下を加速させるため、加湿器やミスト化粧水も併用がおすすめです。
メイクとの相性・密着感も重視して
メイク前に塗るクリームは油分が多すぎるとファンデーションがヨレやすくなります。
朝は「軽いテクスチャー」「水分多め」のタイプを、夜は「濃厚・コクのある」タイプを使い分けると理想的です。
クリームの比較と選び方|価格・容量・配合を見きわめる

単価(円/mL)と継続コスト
クリームは1〜2か月の継続使用で初めて実感が出るもの。
30gで約3,000円なら、1mLあたり100円。
これを基準に「続けられる価格帯」を見極めましょう。高ければ良いのではなく“続けやすさ”が最も効果に直結します。
成分・配合表の読み方
成分表は配合量の多い順に記載されています。
レチノールやナイアシンアミドなど、有効成分が上位にあるかどうかがチェックポイント。
また、セラミドやグリセリンなどの保湿成分が上位にあれば、乾燥対策効果も高い傾向です。
口コミ・人気ランキングの役割
口コミは肌質・年齢によって感じ方が大きく異なります。
SNSやレビューサイトでは「使用期間の長さ」「肌質の近さ」を意識して参考にしましょう。
美容皮膚科医としては、“誰かの感想”に頼るより“成分根拠が明確な製品”を選ぶことが結果的に近道だと考えています。
人気・話題のクリーム“タイプ別”特徴

ドラッグストア&プチプラ
ナイアシンアミド配合の薬用クリームや、セラミドを多く含む保湿系が主流。
2,000円前後でも成分バランスの良いものが多く、まずはここから始めるのが現実的です。
デパコス・韓国コスメ・通販系
デパートブランドはレチノールやペプチドの安定化技術が進化しており、浸透性が高く刺激が少ないのが特徴。
韓国コスメはナイアシンアミドとヒアルロン酸のダブル配合が多く、コスパも高め。
ネット通販で購入する際は、公式サイトまたは正規販売店で購入し、偽物や旧処方には注意しましょう。
新製品を定期的にチェック
近年は“低刺激で高効果”を両立する製品が増えています。
マイクロカプセル化技術やナノ化ヒアルロン酸など、真皮への浸透効率を高める研究も進行中です。
定期的に最新情報をチェックし、肌の変化に合わせて更新していくことが重要です。
ここが分岐点|“深い溝”が気になる人の次の一手
クリームで肌を守り、美容医療で再生する
スキンケアでできることは、「肌状態を整える」「乾燥やハリの低下を防ぐ」といった“守り”の領域。
すでに明らかな「溝」として現れているほうれい線は、皮下構造そのものが折れ曲がり沈み込んでいるため、再生医療によるアプローチが必要です。
中でもグロースファクター治療は、真皮の線維芽細胞を活性化し、コラーゲン・エラスチンを内側から再構築する治療。
ヒアルロン酸のように“膨らます”のではなく、肌の再生を促して深部から自然にハリや弾力を取り戻すのが特徴です。
クリームで肌状態を整えながら治療を行うことで、効果の定着・持続がより高まります。
治療の目安
以下のような状態の場合、クリームだけでの改善はすでに難しい段階といえます。
- 笑っていないときでも線がくっきりある
- 保湿を続けても口元の影が薄くならない
- 年々ほうれい線が深く長くなっている
こうした場合は、美容皮膚科でのカウンセリングを受け、自分の肌状態に合った治療計画を立てることが得策です。
まとめ|“守りのケア”としてのクリーム、“再生”としての医療
保湿や美容クリームは、小じわ・乾燥・ハリの低下を改善し、ほうれい線の進行を予防する重要な“守りのケア”。
しかし、骨格や脂肪・靭帯の緩みが関わる深いほうれい線を改善するまでの効果はありません。
根本から若々しい口元を取り戻すためには、
1. スキンケアで肌表面を整える
2. 美容医療で真皮を再生し構造を支える
この二段階のアプローチが不可欠です。
当院は無料カウンセリングも実施しており、お寄せいただいたご相談メールには、本記事を執筆している院長の私がすべて丁寧にご返信いたします。ほうれい線でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。


