

著者
ほうれい線治療専門
東京リンクルクリニック
院長 沖津茉莉子
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「グロースファクターって、発がん性があるって聞いたけど大丈夫?」
──そんな不安を抱いて、ネット上を検索しこのページを開かれた方も多いかもしれません。
結論からお伝えします。
グロースファクター(成長因子)そのものに発がん性は一切ありません。
それは、私たちの体の中にもともと存在し、肌の修復や再生を担う“生理的なタンパク質”だからです。
医学的な研究でも、グロースファクターを使用したことで「がんが発生した」「がんリスクが上昇した」という報告は一例もありません。
むしろ、20年以上にわたって医薬品として使われ続け、安全性が確認されている再生医療の基本成分です。
では、なぜ「危険」「発がん性がある」といった言葉が広まってしまったのでしょうか?
──その背景には、“細胞を増やす=がんを作る”という誤ったイメージと、一部の誤用例(過剰投与・混合注入)から生まれた誤解があります。
本記事では、美容皮膚科の現場で数多くのグロースファクター治療を行ってきた医師として、その誤解の根拠と、本当の安全性をわかりやすく解説します。
グロースファクターは「がんを作るもの」では決してなく、“ダメージを負った肌を再生へ導く体の修復スイッチ”です。
正しく理解すれば、恐れるものではなく、あなたの肌の未来を守る治療であることが分かるでしょう。
目次
そもそもグロースファクターとは何か?
グロースファクター(成長因子)とは、体内の細胞同士が「再生の指令」を出し合うための伝達物質です。
たとえば皮膚内では、グロースファクターが真皮層に存在する線維芽細胞を活性化することで、コラーゲンやエラスチンの生成を促進します。
簡単に言えば、「ダメージを受けた組織を自己治癒力で修復するスイッチ」のような存在です。
美容医療においては、ヒアルロン酸のように外から製剤を入れて肌を“膨らませる”のではなく、肌そのものを再生してハリや弾力を改善させるのが特徴です。
グロースファクターにはいくつかの種類があり、それぞれが異なる働きを持っています。
代表的なものとしては以下のような成分があります。
- EGF(上皮成長因子):皮膚の表面の修復を促し、ターンオーバーを整える
- FGF(線維芽細胞成長因子):コラーゲンやエラスチンの生成を促進し、ハリを回復させる
- IGF(インスリン様成長因子):皮膚の代謝を活性化し、弾力やうるおいを保つ
- VEGF(血管内皮成長因子):新しい血管の形成を助け、細胞への栄養供給を高める
美容医療では、これらの成分を単独または複合的に応用することで、しわやたるみなどのエイジングサインを根本から改善します。
また、グロースファクターの成分そのものは注入後、体内で自然に分解・吸収されるため、異物として残ることがなく、しこりや炎症を起こすリスクも極めて低いことが分かっています。
「発がん性がある?」と言われるようになった理由
ではなぜ、「発がん性がある」といった誤った情報が時折見られるのでしょうか。
誤解の根底にあるのは、「細胞を増やす=がんになる」という安直な発想です。
確かに、グロースファクターは細胞の増殖や活性を促進します。
そのため、がん細胞に対して投与した場合には、理論上それを“増やす方向”“元気になる方向”に働かせる可能性はゼロではありません。
しかしこれはあくまで「がん細胞が施術部位にすでに存在していた場合」にのみ限った話です。
健康な皮膚に対してグロースファクターを注入しても、正常な細胞の働きを高めているだけで、がん化させる作用は一切ありません。
医学的エビデンス|「発がん性は確認されていない」
美容医療や創傷治癒の分野では、グロースファクターはすでに20年以上の臨床実績があります。
その中で、「発がん性を示す」データは一例も報告されていません。
<代表的なエビデンス例>
①bFGF(線維芽細胞成長因子)外用製剤「フィブラストスプレー」
日本では1990年代から医薬品として承認され、熱傷・褥瘡(床ずれ)・外傷などの治療に20年以上使用されています。
複数の臨床報告において、発がんや腫瘍形成の報告は一例もなく、長期にわたり安全性が確認されています。
The Japanese Experience with Basic Fibroblast Growth Factor in Wound Management
Cell Viability of Fibroblast Growth Factor 2 (FGF2)
②EGF(上皮成長因子)外用化粧品の長期使用研究(韓国, 2023)
皮膚の再生や創傷治癒を目的にEGFを外用した臨床研究では、長期間の使用でも異常な細胞増殖や腫瘍性変化は確認されていません。
特に、韓国で行われたEGF配合クリームの長期使用試験では、皮膚バリア機能の改善がみられた一方で、腫瘍性変化は観察されませんでした。
The Clinical Effectiveness and Safety of Using Epidermal Growth Factor in Dermatology
The Use of Epidermal Growth Factor in Dermatological Practice
③国際皮膚科学誌レビュー(EGF・bFGFの真皮使用における遺伝子解析)
国際皮膚科学誌での2024年レビューでは、EGFおよびbFGFを真皮層で使用した際の細胞増殖・遺伝子発現を解析した結果、
がん関連遺伝子の発現変化は認められなかったと報告されています。
Epidermal Growth Factor in Aesthetics and Regenerative Medicine
The Clinical Effectiveness and Safety of Using EGF – Systematic Review
これらの結果からも、適正な使用のもとでのグロースファクター投与は、発がん性リスクを示さないことがわかります。
発がん性の“理論上のリスク”とは何か?
“発がん性”の観点からあえて言うならば、グロースファクターが問題になるのは「注入部位にがん細胞がすでに存在する場合」に限られます。
がん細胞というのは、もともと「細胞が過剰に増え続ける病気」です。
そのため、もしグロースファクターを投与した部位にすでにがん細胞が存在していた場合、理論上、その増殖を助ける可能性は完全には否定できません。
ただし、美容医療で扱う施術部位が皮膚である以上、もし皮膚がんが存在していれば見た目の異常(色調・形状・潰瘍など)から判断が可能です。
実際の施術では、医師が事前に皮膚の状態を確認し、疑わしい所見があれば治療を控えるため、安全性は十分に確保されています。
さらに、通常の美容医療でグロースファクターを注入するのは皮膚の浅い層に限られます。
全身に巡るほど血中に入ることはなく、血中濃度を変化させることもありません。
したがって、万が一全身の他の部位にがんが存在した場合でも、皮膚への局所注入によって影響を及ぼすことはありません。
ネット上の「危険」「しこり」「膨らみすぎ」情報の正体
ネットで検索すると「グロースファクターは危険」「しこりができる」「膨らみ続ける」などの書き込みが散見されます。
しかしその多くは、“混合投与”や“過剰注入”によるコラーゲンの過剰増殖が原因です。
<代表的な誤用例>
- PRP(多血小板血漿)+bFGFの混合注入
日本美容外科学会では「安全性が確立されていない」として非推奨。
この方法では成分同士の予期せぬ相乗効果が生じ、コラーゲンの異常増殖によるしこりの形成や膨らみすぎといった現象が起こる場合があります。 - 不適切な製剤の誤使用
美容医療用に開発された製剤ではなく、研究用途や医薬品原液などを不適切に使用したケース。
適切な成分の配合率・濃度・注入技術の知識がなければ、しこりや膨らみすぎを起こす可能性があります。 - 短期間で複数回数の投与
グロースファクターは注入後、数か月かけて徐々に効果を発現し、半年ほどでコラーゲン生成が落ち着く仕組みです。
この経過を待たずに追加注入を行ったり、短期間で複数回投与を繰り返すと、コラーゲンが過剰に生成され意図しない膨らみやしこりが生じる可能性があります。
これらは「グロースファクターそのものの危険性」ではなく、医療者側の知識不足や管理体制の問題であると言えます。
医師としての結論|グロースファクターは「安全に使えば非常に優れた再生医療」
グロースファクターの安全性について医学的に言えるのは、以下のの3点です。
- グロースファクター自体に発がん性はない
- がん細胞が施術部位に存在しないか、施術前に判断が必要
- 適正な製剤・適切な投与量・経験ある医師の管理下なら極めて安全
つまり、「危険」なのは成分ではなく、知識や経験のない施術です。
美容医療は本来、リスクを最小限にして美しさを最大化するもの。
正しい理解と医師による管理のもとで行えば、グロースファクターは“自然で安全な再生医療”といえます。
まとめ|正しく知れば、グロースファクターは安全な再生医療
グロースファクター(成長因子)は、もともと体の中にある細胞修復を促すたんぱく質であり、肌の再生やハリを取り戻す働きを持っています。
「細胞を増やす=発がん性がある」という誤解が一部で広がっていますが、医学的にグロースファクターががんを発生させることはありません。
20年以上にわたり医薬品としても使われ続けており、適切な濃度・方法で注入すれば安全性は非常に高い治療です。
注意が必要なのは、がん治療中や皮膚に異常がある場合など、ごく限られたケースにおいてのみです。
健康な皮膚に適切に投与されたグロースファクターは、がんを引き起こすことなく肌本来の再生力を呼び起こします。
誤った情報に惑わされず、医師の診察のもとで正しく理解し、安心して再生医療の力を活かしていただければと思います。
東京リンクルクリニックでは、グロースファクターによるほうれい線治療を専門的に行っています。
メールでの無料カウンセリングも行っており、お寄せいただいたご相談メールには院長の私がすべて直接ご返信しています。
自然で違和感のない若返りを目指す方は、ぜひお気軽にご相談ください。